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第9回_セットバック.jpg

◯住まいいろいろ9:「セットバック」道路のためと言うけれど…

 

【鎌倉市】

幅が4メートルを切る路地に面した敷地では、不足幅の半分の距離だけ境界線から下がらないと新たに建物が建てられないこと、知ってますか。

 

これをセットバックといい、建築基準法の決まり。道幅が2・8メートルの場合、道から60センチ後退する計算になる。緊急時に救急車や消防車などが速やかに通れるよう、4メートル幅の道にするのが法の趣旨である。道沿いの建物がそろって下がった時点で、役所がセットバック部分を買い上げる。

 

ところが、そんな敷地に家を建てた住民の多くが、すぐ土地を売らないといけないと思いこんでいるふしがある。

 

関東のある都市では、建築確認の申請書類を役所に出すと、「セットバック部分を買い上げさせてください」と記した紙が渡される。あくまでお願いなのだが、承諾の印鑑を押さないと申請が下りないと思われているのだ。

 

何にも建てられないのだから、同じことじゃないかと思うかもしれない。

 

だが、市町村の手に渡ると、たいていはすぐアスファルトになる。自分で持っていれば、ささやかな数十センチのスペースを「緑の前庭」にすることだって可能だ。

 

実際、京都市の担当者に、芝生や草花を植えてもいいかたずねると、「大きな木を植えなければ問題はない」と明快な答えが返ってきた。

 

お上による実質的な「召し上げ」の傾向は関西より関東の方が強いらしい。そう聞いていた約2年前、神奈川県鎌倉市の土地を買った人から設計の依頼があった。

 

狭い路地に面した敷地に見事なソメイヨシノの木が2本。ほかにも数本の大木があった。セットバックしなければならない部分だ。

 

あの木を切らずにすむ理由はないかと、あれこれ考えながら市の窓口へ向かった。

「とても雰囲気のある桜です。まわりの緑もなかなかいい感じなんですが」

返事は簡単だった。「そんな場合は、個別の状況に応じて相談させてもらってます

柔軟な対応に感心した。

鎌倉は、京都とならんで景観保全に熱心な土地柄だ。古都の風情を求めてこの地に住みたいと願う関東人は少なくない。窓口の男性は最後につけ加えた。

 

「特に、桜はうっかり切ったら大変。怒鳴り込まれたこともあるんですよ」!

 道幅と緑。どちらか一方がもう一方より常に大切ということはない。法律がいつも正しいとは限らないのである。

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