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◯住まいいろいろ8「海沿いの急斜地」絶壁テラスで夕日に乾杯
【サントリーニ島】
ギリシャのサントリーニ島は、紺碧のエーゲ海にそびえ立つ絶壁と、そこにへばりつく白い集落で知られる。
豪華な宮殿も、著名な史跡もない。50〜60年前までただの漁村だったのが、今や世界中から人々が訪れる観光地である。尾根沿いの目抜き通りは車も入れないほどの狭さ。その両側に民家を改造した店が並ぶ。
おととし、この島の北端の町イアのホテルに泊まった。十数軒の民家を1つのホテルとして改造したという。1メートルに満たない幅の路地に面した玄関ホールは4畳ほど。石灰を塗りまわした壁に小さな木製カウンターがあるだけだ。
別々の家を客室に模様替えしたので、1室ごとに形や広さが違う。フロントの若い女性について、曲がりくねった屋外階段を降りていく。
真っ白な巨大遊具の中にいる気分で、灰色の石でつくった階段と濃い緑色の扉がなければ、そこが建物の一部であることに気づかないほどだ。
アパートメント形式の2LDKの部屋を借りた。当時5歳の娘にせかされて出たテラスの右手には、長細いプールが洞窟の奥からエーゲ海にせり出すように伸び、プールサイドにはさりげなくバーがしつらえてある。部屋にある洞窟のような浴室には最新のジャグジーバス。新旧の対比を生かした改装がうまい。
こんな「ステキ」なリゾート体験を紹介したのは、似たような魅力的な地形と集落の組み合わせが、日本にも何百とあることを知ってほしいと思ったからだ。
紀伊水道に面した和歌山県のある漁村は、海に面した急斜面に約60世帯が密集して暮らしている。夏には、海面から約30メートルの高さのテラスでビールなどを飲みながら夕涼みする人の姿がある。何とも優雅な住空間である。
10年前に訪れた際、その空間構成のすばらしさに素直に感動した。と同時に実にもったいないと思った。
日本では、同じような集落の多くで海を見下ろす家々を取り壊し、「立派な」道路と堤防を築くのが現実である。
だが、建物や街路など既存の町を利用しながら、材料や色調、新しく取り付ける部品を工夫すれば、サントリーニ島とまではいかないまでも、多くの人の目を奪う景観をつくり出すことが可能である。
観光地化の是非は別にして、過疎に悩む村にとって検討に値するのでは、と思うが。