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住まいいろいろ2「モノへのこだわり」選び抜き、末長く使い込む

【バーゼル】

「これ、みんな本当に使ってもいいのかしら」

妻がキッチンの引き出しを前に半信半疑で言った。

「だって、どこの引き出しも自由に開けて使ってね、とメモに書いてあるよ」

 

7年前、独、仏と国境を接するスイスのバーゼルで約2週間の休暇を過ごした。

60歳過ぎのスイス人女性建築家が米国旅行に出かける間、自宅のアパートを貸してくれた。友人の友人というだけで、一度も面識がないのに、である。

 

静かな市街地にある小ぶりな5階建て。そこにエレベーターはないが、欧州では普通だ。建物は古くなってもリフォームを重ね、使い込んでいく。

 

らせん階段を上り、最上階の部屋の鍵をあけて、さらに感心した。アトリエを兼ねた約20畳の居間にあったのは、楕円形の大きな木製ダイニングテーブルとイス、革張りのソファとオーディオセット、本棚ぐらい。

余計なものがない。

そして、居間からキッチンに至るほとんどすべての収納に、ボクたちが使いやすいよう、「食器類」「ナベ」などとメモ書きした付箋紙が張ってあった。

家具からフォークに至るまで、質素だが、厳選したものを長く使っているという意識が見える。だから、他人に部屋を貸しても恥ずかしくないんだと思った。

 

滞在最終日。帰国した貸主が「ぜひディナーを一緒に」と誘ってくれた。

彼女の男友だち、娘夫婦と囲んだ食卓には、何種類かのパンとチーズ、生ハムにジャガイモのスープ、そしてワイン。初対面の日本人夫婦を驚かせるようなものはなかったが、どれもおいしく、何よりインテリアとぴったり合った飾らない雰囲気がカッコよかった。

 

ふと、「地球家族」(TOTO出版)という写真集を思い出した。各国の「ふつうのくらし」を紹介するため、30カ国から家族をひと組ずつ選び、ベッドから食器まで一切の家財道具を家の前に並べ、それぞれ1枚の写真に納めた本だ。

編者の米国人フォトジャーナリストは「日本での撮影がいちばん大変だった」と、あとがきで記している。人口の密集した東京で、一家の所有物を並べられる場所がなかなか見つからなかったと。それだけモノが多い、ということなのだろう。

 

週末のたびに、「何割引き!」と安さを強調した電化製品や家具のチラシが届く国、ニッポン。みなさん、一度、見ず知らずの人に部屋を貸すことを考えては、いかがでしょう。 

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