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◯住まいいろいろ1 「建築家はシェフ?」厨房に入ってこないで
【大阪】
建築家4、5人で飲んでいたら、こんな話で盛り上がった。
「え、客を厨房に入れるの?」
「入りまくりやで。材料つまんでこれ何? へーこんな厚い鉄板で焼くんか、このスパイスうまそやなァって感じ。一緒につくる雰囲気でいかな、大阪はあかんねん」
レストランのことではない。家を建てるとき、依頼主が口出しするのをどこまで認めるかという例え話である。
家の設計を相談しに来た人へ、京都に住むボクはこう答えてきた。
「自分の結婚披露宴の料理をシェフに頼むのと同じだと思ってください」
費用や場所(敷地)、参加者(家族)の人数とその年齢構成などは、なくてはならない情報だ。ニンジン(北向きの台所)はイヤ、伊勢エビ(屋上テラス)はぜひ、といった注文ももちろんお受けする。
だけど、野菜(素材)の組み合わせはこう、スパイス(窓)はこれ、ここで3分煮て(塗装して)ほしい、と指定するのは、ちょっと待って。
こういうところがシェフの腕の見せどころなのだ。決めて頼むのなら、日本のほとんどの施工会社がキチンとやってくれる。
どんな料理(空間)を組み合わせ、宴の雰囲気(快適さ)をいかに演出するかといったあたりに工夫を凝らし、案を練るのである。客の知らない材料や処理方法を駆使し、うならせてこそプロ。だから厨房に入って、直接指示するのはどうかご勘弁を。
「そやけど一緒に作りたい、考えたい、それが楽しいっちゅう客も大阪には多いんや」
確かに現実の住宅設計は、厨房と客席の境目がはっきりしない。どこまで口出ししていいか客が戸惑うのも無理はない。
客が厨房に入りたくなるもう一つの理由は、シェフの腕前の判断がつかないことだろう。
こいつは五つ星なのか、いやとんでもないのか。判断がつくように改めないとレストラン「建築界」には、いつまでたっても客は寄ってこない。