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◯住まいいろいろ4「同級生の二世帯住宅」風呂場は共有できるか?
【中井町】
「風呂ぐらいは共有でいいと思っていると、結局プライバシーがなくなるんだヨ。オレのうちがそうなんだから」
工務店を経営する小学校時代の同級生が、ボクのつくった二世帯住宅のプランに、やけに刃向かう。「共有することが悪いんじゃなくて、おまえのうちのプランがまずいんじゃないの」とボクも応戦する。同級生だから口も悪い。
なんでこんな話になったかというと、やはり小学校で同級だった女性が、神奈川県中井町にある夫の実家を二世帯住宅に建て直すことになったからだ。三十数年ぶりの偶然の出会いからボクが設計し、彼が施工を任された。
「あの家の台所に立つだけで気がめいってしまうのよ」
設計にあたって、彼女は建て直す理由を打ち明けた。確かに北向きの台所は昼間でも薄暗く、冬は凍えそうだ。ただ、伝統的な農家とはそういうものだ。日の当たる庭側は盆や正月などフォーマルなときだけ使う座敷にする。現代の感覚からすれば、非合理的なのである。
結婚後、しばらくは同居していたが、そんな家の造りになじめなかったうえ、精神的なプレッシャーも重なり、体調を崩してしまう。ひと山越えた隣の市街地にある夫の会社の社宅に移った。
だが、逃げるように出ていったという後ろめたさもあって、一人息子が小学生になるのを機に、もう一度同居を決意した。ただし、あの家のままではつらいので建て直しを提案すると、夫もその両親も快く応じてくれたという。
そんな事情をきいて新築する家は、二つの家族の新しい関係を「援護」する舞台装置にしなくては、と考えた。
玄関や居間、キッチンはやはり別々にした。でも、家族と家族の距離感と工事費用のことを考慮して、ボクは洗面室と風呂を共有するというプランをたてた。彼は、その設計に異を唱えたというわけだ。
約7カ月後、共有部分をはさんで両側に二つの家族の部屋が並ぶという細長い家が完成した。同居から10カ月。ときどき、小学生の息子が扉を開けはなって、祖父母の部屋まで一気に駆け抜けているらしい。いい雰囲気のようである。
ところで、あの議論から少し経ったころ、彼の自宅を訪ねた。増改築した二世帯住宅は、彼の家族の居間を横切らないと両親が風呂場に行けないようになっていた。
「やっぱりな」。苦労してるんだろうなと、口の悪い設計者も、ちょっぴり同情した。